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パラレルSS「庭師の恋」(一)

【諸注意】

・パラレルです
・少し文体を変えました
・更新はスローペース(え

フェイなのであることには違いありません
どんとこいな方は続きからどうぞ

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恰幅のいい初老の男が話を進めていく。
媚びた瞳に見え隠れする侮蔑の色に、それでも無下に断ることはできないのだと、複雑な感情が入り混じる父の顔を横目になのはは思った。
いつまでもこんな日々は続かない。そうわかっていても、その顔に諦念だけが浮かぶ日を思うとたまらない気持ちになる。そしてそれはきっと遠くない未来のことなのだ――

かん、と煙草盆に煙管を打ちつける音が響く。
耳障りなその音にぴくりと体を震わせると男は格好を崩して口を歪ませた。

「うちの愚息には、もったいないほどのお嬢さんだ」

好色な笑みに思わず顔を伏せるなのはをどう思ったのか男は満足そうに煙を吐き出した。
不躾な視線に小袖の下で拳を握り締めていると、座敷に響く低い咳払いの音。
押し殺した父の剣幕に慌てて居住まいを正し男は薄くなりはじめた髪を撫で付けた。

「……いやしかし、お嬢さんも美しいが」

流石はお武家様――
持ち替えた煙管をぷかりとふかす。
開け放たれた障子に顔を向けると、この男の口から最も聞きたくなかった言葉が漏れた。

「庭も見事ですな」

 

 

   庭師の恋 (一)

 

 

黒光りのする廊下の上を白い足袋が音もなく滑っていく。
廻り廊に面した庭が見渡せる部屋の前でなのはは歩みを止め縁台に腰掛けた。
すうと息を吸い込む。

「フェイトちゃん――」

枝の影から人が動く。
腰掛けたなのはと傍らに置かれた盆に気付くと、驚いたように赤い眼を見開いた。

「もう、八つ時ですか」

縁台へと歩みを進める度に後ろで束ねた金の髪がふわりと揺れる。
腹掛けに黒の作務衣、手甲に地下足袋。
じっとしていても汗をかくような季節ではなくなったものの、流石に暑かったのか頭に巻いていた手拭いをするりと外すとフェイトは額に浮いた汗を拭いた。

温めにしておいてよかった――

礼を言って隣に腰掛けるとフェイトは喉を鳴らして茶を飲み始める。
その横顔を見ながらそれは自分が淹れたのだと言ったらどうなるのだろうと思ったが、慌てふためく姿が目に浮かび、開きかけた口を閉じる。今までの苦労を水の泡にはしたくなかった。

「美味しい?」
「はい」

人心地ついた様子のフェイトに問いかけると、短い返事と穏やかな笑みが返される。

庭師としてこの屋敷に来た当初、フェイトはただ畏まるばかりでまともに顔も合わせてくれなかった。同じ年頃の娘と仲良くなりたい一心で、自ら進んで差し入れを持って縁台に立ったときも、お嬢様にそんなことをさせないで下さいと女中に意見したほど。
そんな頑なな態度がかえって自分を焚きつけることになったのだが、おそらくそれには気付いていないのだろう。大人びた見た目とは裏腹に案外鈍いところもあると知ったのも、こうしてひとときの休息を一緒に過ごすようになってからだった。

やっと顔を見て笑ってくれるようになった。
そう思うと、自然に頬が緩んでしまう。

「何か、良いことでも?」
「え?ううん……なんでもないよ」

不思議そうに覗き込むフェイトに慌てて返すと、そうですかと呟いて前に向き直った。

初秋の風が頬を撫で、さわさわと庭木の葉が音を立てる。
会話が途切れたまま何となく二人ともその音を聞いていた。

沈黙は苦痛ではない。それでもずっと黙っていると、若い娘が縁台に並んで静かに茶を飲んでいるのが滑稽に思えてきて、なのはは声を立てて笑い出した。
今度は何事かとフェイトは訝しげな表情になる。

「どうしたんですか?」
「ふふっ……こうしてると何だか、老夫婦みたいだなと思って」
「なっ……!」

一瞬で朱が差したフェイトの顔にまたなのはが笑う。
ほんの少しからかうだけですぐに赤くなってしまうところも、最近知ったことだった。
居たたまれなくなったのか、フェイトは残りの茶をぐっと飲み干すと腰を上げた。

「もういいの?」
「はい。ご馳走様でした」

そそくさと手拭いを巻きつけ始める。
その様子を見上げながら、今回はやりすぎたみたいだと後悔していると。

「温めにしていただいて、ありがとうございました」

まだほんのり赤い顔でそう言い残して、フェイトは早足で庭に戻っていった。

逃げるように小さくなる背中。

返事もさせてくれないなんて。
それでも自分の気遣いに気付いてくれたのが嬉しくてまた顔が綻んだ。
こんな風に、少しずつ近づいていけばいい。

縁台に腰掛けたまま、霜よけの蓑を幹に巻き始めたフェイトを眺める。
この屋敷にまだ仕事があるうちはこうして来てくれるのだから。
その間にもっと話をして。仲良くなって。それで。
それで、どうなるのだろう。その先はいつも、霞んでいた。

私は――

一際強い風が吹いて、ざあっと葉の擦れる音が響きわたる。
乱れた髪を直そうと手を持ち上げると、小袖の端が盆にかかって。
かん、と茶碗が音を立てて倒れた。
一瞬で甦るのは、煙管を打ちつけるあの甲高い音と。

『庭も見事ですな』

その声を振り払うように顔を上げると、フェイトが髪を抑えてこちらを見ていた。
ひどい風ですねと苦笑いをするその姿になぜか胸がずきりと痛んで。

 

そのとき、全て分かってしまった。

 

どうしてあのとき聞きたくないと思ったのか。
どうして近づきたいと思うのか。
どうして今こんなに胸が痛むのか。
霞んでいた先にあるものは。

 

 

私は、あの人のことが好きなんだ――

 

 

木肌を撫でるフェイトの白い指先を、なのははただじっと見つめていた。

  

  

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コメント

庭師キター!!笑 いやほんと、待ってましたよw続きがすごく気になっていたので・・・二人で座っている様子が、なぜかはっきりと想像出来ました。

投稿: なぁしさす | 2008年9月21日 (日) 21時02分

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