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パラレルSS「庭師の恋」(三)

病室から愛を込めて

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天涯孤独。
物心ついたときから少女はそんな風に囁かれていた。親を亡くした気の毒な子だと周りは言うが、それでもその目はどこか冷たい。

聡ければ鼻につき、愚を装えば疎まれる。けして目立たぬようにと奉公先でも身を縮めて生きてきた。下働きに許されたのはわずかな休息。あてがわれた部屋もなくひとり軒下に座り込んだ少女はそこで、美しい庭が出来上がっていくのを目の当たりにした。朽ちたはずの木が息を吹き返し、青い葉を付け始める。まるで奇術を見るような気持ちで、黙々と働く庭師の手元を飽きもせず眺め続けた。

季節を一巡りして仕事を終えた庭師は、はじめて少女に口を利く。

 

「やってみたいか」

  

ゆっくりと頷いた少女の名は、フェイトといった。

 

 

   庭師の恋 (三)

 

 

雨どいを伝った雫がぴちゃんと落ちる。
叩きつけるような雨も風もとうに止んでいるのに、眠ることができない。
暗い部屋で横になっていたフェイトはごろりと寝返りを打ち天井を仰いだ。
ふいに懐かしい声が聞こえてくる。

『眠れないときは、天井の染みを数えるんだ――』

自分を引き取ってくれた庭師は、いつも温かく包み込んでくれた。
夜がくる度に言いようのない孤独感に襲われて、布団に隠れて泣いていた幼い頃。こう言って寝付くまで起きていてくれた。自分より先に眠りにつくのを見たのは、一度きり。

あれから何年経ったのか。
染みがどこにいくつあるのか目を瞑ってもわかるようになった今でも、こんな夜は数えているだけで不思議と眠りにつくことができた。
それなのに――

ひとつ、ふたつ。

十数えたところで、フェイトは諦めてまた寝返りを打った。
思い出すのは、雨に濡れた振袖と名も知らぬ香の匂い。触れ合った肩がじわりと熱を帯びて。孤独に似た、しかしそれ以上に激しい感情が眠りを妨げる。名は知っていても、口に出すことは憚られた。

 

誰かを想って眠れない夜は、どうすればいいですか――

 

無口だが優しかった師は、もうどこにもいない。
返らぬ問いに答えるかのように、ぴちゃんと音を立てて雫が落ちた。

 

 

台風一過の見事な秋晴れ。吸い込まれそうな高い空を、フェイトはやっと見上げることができた。昨夜の風にもぎとられた葉や枝が広い庭のあちこちに飛び散っていて、黙々と下を向いて取り除くだけで半日が過ぎてしまった。
うろこ雲を見ながらぼんやりしているフェイトの様子に、女中は人の悪い笑みを浮かべる。

「お嬢様やなくて悪かったなあ」

わざとらしく廊下にのの字を書き、拗ねた声色でいきなりそんな事を言い出したはやてに、フェイトは落としそうになった湯飲みを持ち直した。

「べ、別に、そんなこと……」
「そう言うわりには、浮かない顔やで」

八つ時に縁台に立ったはやての姿を、少々残念に思った自分がいたのは確かだけれど。
そんなに顔に出ていたのだろうか。湯飲みに目を落としても、ぐにゃりと歪んだ顔しか映らない。

「ゆうべは、よく眠れなかったから……それで顔色悪いのかな」

苦しい言い訳でも、眠れなかったのは嘘ではない。見透かされていつものようにからかわれるかと思ったが、はやては意外にも驚いたようにフェイトを見据えた。

「何や、フェイトちゃんも調子悪いんか。そしたら、今日はもう上がってええよ。だいぶ綺麗になったしな」

その言葉に、思わず顔を上げる。
射抜くようなフェイトの視線に、はやてはしまったという顔をした。

「誰か、調子悪いの?」
「あー……。うん、まあ……ちょっとな……熱出してん、なのはちゃん」

嫌な予感は的中した。どうしてはやてが代わりに来た時に気付かなかったのかと、苦々しい気持ちになる。原因を作ったのは自分なのに。

「昨日、濡れたから……」

やっぱりあの時、押し切って傘を取りにいくべきだった。いや、そもそも自分があんなところで雨宿りをしていたせいで――
震えていた肩を思い出して拳を握り締めていると、はやての眉が下がる。

「そんな顔せんとってや。あれはなんていうか、自業自得やし。それに最近縁談続きやったから、その疲れが一気に出たんやろ。フェイトちゃんのせいやないから」
「でも……やっぱり……」

そう言われても、自分を責める気持ちはなくならない。俯いて動かなくなったフェイトに溜息を漏らして、はやては手元から湯飲みを奪った。

「そしたら責任とってもらわんと、しゃあないな」
「はやて?」
「お見舞い、いこか」

かちゃかちゃと音を立てて湯飲みを盆に載せると、すっくと立ち上がる。
呆然と見上げるフェイトにほら、と声を掛けた。

「い、今からっ?私が?」
「何や、都合悪いんか?風邪うつされるんが嫌か?それとも、顔も見たないか?」

まごつくフェイトに一気にまくし立てると、地下足袋を脱がせてずんずんと廊下を進んでいく。いつかもこんな日があったように思いながらよたよたと付いていくと、途中で突然立ち止まったはやてにぶつかりそうになった。

「わっ!な、何?」
「そうやった、今、馴染みの薬師に来てもらっててな……」

「……そんなに悪いの?」
「いや、呼んでないのに来たというか。うーん、間がいいんか悪いんか……」

盆を持ったまましばらく何かを考えると、はやてはフェイトを振り返って笑った。

「まあ、フェイトちゃんなら気が合いそうやね。これ下げてくるから、先に行っといて。一番奥の間やから」
「え、ちょっと、先にって……」

ただでさえ家に上がって落ち着かないフェイトを置き去りにして、はやての後姿が小さくなっていく。このまま帰ってしまいたい気もしたが、薬師が来るほど具合が悪いのなら、障子越しにでも昨日のことを謝っておくべきだと自分を奮い立たせた。

それに、気が合いそうって、どういうことなんだろう――

奥の間の前まで来ると、流石に逡巡する。そっと部屋の様子を伺うが人の気配はない。薬師もいないのだろうか。フェイトは障子の前に正座して、おそるおそる声を掛けた。

「し、失礼します――」

微かな衣擦れの音に緊張が走る。

 

「はい」

 

返事は、涼やかな男の声だった。

 

 

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コメント

ちょ、鳴海さん!!!更新なんかしてて大丈夫なんですか!!? 
まぁ正直、顔出してくださったのでとりあえずご無事なんだなぁと安心したし、ssも読めて嬉しかったのですが(^^;
ssは相変わらずの素敵っぷりです〜。
早く退院されるよう、願っております><

投稿: なぁしさす | 2008年10月18日 (土) 08時47分

仕事明けの疲れきった体で泥の様に寝る前に、せめて心の癒しをと思いサイトに繋ぐこと数分前…
ちょっと奥さん!更新されてるぅーーーー!!?
なんですか!この嬉し☆恥ずかし☆ドッキリハプニングわっ!!…は!そうか、鳴海さんこそが自分の白衣の天使だったんですね!!そうなんですね!!
………などと無駄にテンションがあがりまくったバカが一人(ホントすいません)。
お元気でいることが分かって嬉しいかぎりです!早く良くなって無事退院してくださいね!

投稿: neko | 2008年10月19日 (日) 15時58分

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