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パラレルSS「庭師の恋」(四)

誰だ週末って言ったやつヽ(#゚Д゚)ノ┌┛)`Д゚)・;

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熱に浮かされて夢を見た。

静かに自分を見下ろす愛しい人。ふわふわとぬるま湯を漂う浮遊感の中、その姿を認めるとただ嬉しくて名を呼んだ。けれどからからに渇いた喉からは引き攣れた音しか出ない。不意に白く綺麗な手が離れていく。

掴まえようとしても、沼地にはまったように体は動かない。泥のような眠気に引きずり込まれそうになるのを必死で耐える。触れたかった。触れてほしかった。叫んでも叫んでも、金糸から覗く紅い瞳はただ静かになのはを見下ろすばかり。

せめて、笑ってくれたっていいのに――

夢の中でさえつれない想い人に愚痴のひとつも言ってみたくなるけれど、それがどうにも自分の夢らしくておかしかった。届かない。叶わない。それを知っていてまだこんなに焦がれている。おかしくて、笑おうとしたなのはの目尻に雫が溜まる。端から零れていくのはきっと、夢にも現にも行き場のない想い。

これでよかった。
幸せな夢は、辛くなるから。

ゆっくりと目を伏せると、なのはの意識は再び深い眠りの淵に沈んでいった。

 

 

   庭師の恋 (四)

  

  

糊の利いた襦袢に着替え熱い粥を食べ終えると、眠り続けたせいでどこかぼんやりしていた頭がようやく冴えてくる。半身を起こしたまま、なのはは掌の小さな薬包をじっと睨み付けていた。

「……見てても無くならへんで」

横から飛んでくるのはもっともな意見。意を決して一息に口に含むと、いっぱいに広がる苦い味と癖のある匂い。いくつになっても嫌なものは嫌だ。水で流し込んだ後もなのはの顔は渋いままだった。

「う……」
「良薬口に苦しやね」

どこかほっとした様子のはやての後ろから、障子越しの柔らかな陽の光が差し込む。
なのはが目を覚ましたのはもう昼といってもいい時分だった。丸一日眠りこけていたことには驚いたけれど、そのおかげで体は軽かった。味はともかくとして良薬には違いないと、思わず握り締めそうになった薄い紙を丁寧に畳んだ。

「あれ、そういえばユーノ君は?」
「朝一番に行李背負って出かけていったで。相変わらず慌しい男や」

昨日ふらりと顔を出したのは幼馴染の薬売り。山越えに台風でぼろぼろになった脚絆を恥ずかしそうにしていたけれど、どうやら商売道具は濡れなかったらしい。前もって文でも寄越してくれれば替えのものぐらい用意しておいたのに。それに来るとわかっていたら、熱だって引っ込んでいたはずだと、苦みの残る口を押さえてなのはは現金なことを思った。

「ふふ……今回はどれくらいいるのかな」
「確か一週間はおるって言うとったけど」
「そっか、じゃあまたすぐに行っちゃうね」
「……何や、聞いてへんかったん?」

ユーノの評判は高かった。異国の薬売りという物珍しさも相まってか、医者の少ない山奥の村では下にも置かぬ扱いらしい。そう言うと本人は困ったように笑うけれど、そういった場所をあえて選んでいることは知っていた。その忙しい旅の合間、折に触れてこうして顔を出してくれる幼馴染に、昨日は自分のことばかり話していたことに気付いてなのはは恥ずかしくなった。

「ま、しばらく泊まるように言うてあるから。ゆっくり話したらええやん。もちろん治ってからやけど」
「うん……はやてちゃんも、ごめんね。ありがとう」

はやての顔にうっすらと滲む疲労の色。きっと一晩中付いてくれていたのだと、その目元にそっと指で触れる。くすぐったそうに身を捩り、はやてはその手をぽんと叩いた。

「そんなん気にするより、早う元気になってくれた方が助かるわ……お茶持って行くたびにがっかりされるんも結構辛いねん」

 

一瞬ぱちぱちと、目を瞬いて。

 

「はやてちゃ」
「おやすみやす」

今まで聞いたこともない挨拶を残して、はやては障子の隙間からするりと逃げていく。
その足音にからかわれているような気がして、なのはは頭から布団を被った。顔が熱い。けれどこればかりは薬でも治らないのだ。

いっそ、このまま治らないでいようか。そうすれば。
怒ったはやての顔が浮かんで、その考えはすぐに一蹴された。

「眠れないよ……」

明日、どんな顔をして会えばいいのか。
もぞもぞと布団から顔を出して、なのはは熱っぽく息を吐いた。

 

 

くるくると、色づいた紅葉を指で回す。
いつもと少し違う八つ時の時間。

「ごめん、なのは」

突然謝りだしたユーノに驚いてなのはは手を止めた。
縁側に座ったままユーノはじっと前を見ている。その視線の先で、フェイトは紅葉の剪定に勤しんでいた。今手にしているのは、捨てるには惜しいからとさっきもらったもの。

「どうして?」

熱を出したことは一応伏せるように言っておいたけれど、別にどうということはなかった。フェイトが済まなそうに顔を伏せてばかりなのが少し残念だっただけ。大体、口を滑らしたのははやてなのだ。なのはが首を傾げると、ユーノは少し言葉を選んでいるようだった。

「いや、その……怒ってるように見えたから」
「どうして?」

畳み掛けるような自分の言葉に、これでは詰問しているみたいだとなのはは思った。
翠の瞳が困ったように揺れている。なのはが謝るより先に、ユーノが口を開いた。

「違ったらいいんだ。うん、ごめん」
「……ユーノ君、さっきから謝ってばっかりだよ」
「ごめん」

あ、と顔を見合わせて。二人でくすくすと笑い出す。
どこか張り詰めていた空気が弛緩した。
気をつけなければ、となのはは思う。本当は少し怒っていた。

 

「去年よりずっといい枝振りになってるね」

感心したようなユーノの呟きにつられて庭に目を向ける。まだ葉が青い頃からフェイトが手入れを施した紅葉は、涼しげに枝を広げて薄く色づき始めていた。フェイトはほとんど鋏を入れなかったけれど、その立ち姿が美しくなっているのは素人目にも明らかだった。

「紅葉は枝が折れやすいから、結構難しいんだ」
「へえ……詳しいんだね」

ユーノが見つめていたのは紅葉だった。そのことに安堵しているはずなのに、どこか棘の含まれた自分の声。こんな風にしたいわけではなかった。いつものように笑って話したかった。けれど感情はそれに追いつかない。

フェイトちゃん、笑ってた――

休憩の入りになのはが目の当たりにしたのは、庭先にかがみこんで何やら話し込んでいる二人の後姿。いつの間に親しくなったのか、楽しげに会話を交わすフェイトの横顔。その瞬間足元から這い上がってきた底知れぬ感情は容易くなのはを飲み込んで、今もまだ消えずに淀んでいる。それが自分がどれほど望んで手に入れたものなのか、隣に座るユーノに言ってしまいたかった。あんな風に他人に笑いかけるフェイトを知らなかった。

 

馬鹿みたい――

 

腹を立てるほどの何かが、自分とフェイトの間にあったというのか。
これを悋気と呼ぶには、あまりに独りよがりすぎて。

浮かれて紅まで差してきた自分が、ひどく滑稽に思える。

 

「ユーノ君」
「ん?」

 

くるりと紅葉を回す。
少しだけ息がしやすくなった。

 

「ごめんね」
「……流行り病だったのかな」

 

二人で小さく肩を震わせた後。
土産話を始めた幼馴染のゆったりした声に耳を傾ける。

 

自分達に注がれている視線に、なのはが気付づくことはなかった。

 

 

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